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記忘記 note/off note 2017-03-18



VAL / 板谷博 ギルティ・フィジック(off note / on-6)


本作はいまは亡きトロンボーン奏者・板谷博のスタジオ録音によるリーダー作である。板谷さんは生涯「うた」ということに拘った人だった。ジャズのイディオムの中でいかに「うたう」か、板谷さんとの話題はいつもこの一点に終始したと言っていい。がしかし、コチコチのドイツイデオロギー的思考を嗜好していた板谷さんの「うた」の概念は頗る形式的で、わたしの耳には単に「フォーム」を指向しているとしか響かなかった。だからと言って、板谷博を単なる形式主義者として括ることはできない。セロニアスモンクを愛しローランドカークに痺れ、同世代の演奏家では林栄一、松風紘一に大きな共感を寄せていた板谷さん。ランダムに並べたこの四者に共通する属性は演奏の中に「うた」を自然に湧き立たせ溢れさせることができる自在性だろう。演奏家・板谷博がもっとも入手したかったのはこの泉のように滾々と湧き出る奔放な自在性だったにちがいない。にもかかわらず、全共闘世代の板谷さんはハタチの頃に染まった観念的思考をついに脱することができず、常に「うた」を概念的に捉えようとしただろう。わたしはそんな板谷さんの論調に烈しく苛立ち、不遜にも肚の中でこう呟いたことだった。あなたはご自身を正確に理解していないのだ、演奏家・板谷博の本領はガチガチの観念思考の内にはない、あなたの真価は類稀な轟音を闇雲に吹ききったときにこそあらわれるのだ、と。まさに然り。板谷さんの最大の魅力は「世界一バカでかい」と評されたあの豪快な吹きっぷりにある。この世間の評判をご本人は「馬鹿のマラ自慢みたいで厭だ」と嫌ったが、この評言の中にこそ板谷博が焦がれるほど希求した独自の「うた」の所在があったのだ、そう断言できる。つまり、演奏家・板谷博の中で「観念」を「肉体」が裏切り超克する身体の弁証法的ドラマが絶えず生起していたのである。そのことに板谷博が気付いていなかったはずはないが、本人の口からはついに聞きそびれてしまった。現在、生の演奏に接することができない以上、板谷博「うた」の在処を現認するには記録された演奏の中に探るしかないだろう。だが、残された演奏記録の内に自ずと回答は示されている。「理性」から「狂気」の間のダイナミクスをスライド一本で制御し、瞬間のインスピレーションをエモーションと共に吐き尽くす大きな息遣いの裡に板谷博が生涯追い求めた「うた」はかならず宿っているはずである。(2017.3.18)


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