記忘記 note/off note 2020-11-10
引き裂かれた声の裂け目から
赤と青の葛藤と相剋だけではない。分断がアメリカが本質的に抱える宿痾であり現在の苦悩だったとしてもその裂け目を埋めるようにして多様な大衆音楽が勃興してきたのもまた事実だろう。ブルーズ然り。ジャズは20世紀最大の芸術になった。ガラスの天井の向こうに広がるマルチカラーのアメリカの空よ。
ここ数日、アルバートアイラーの音楽とウディガスリーの歌ばかりを聴いて過ごす。引き裂かれたアメリカの咆哮とダストボウルのバラッドを。1930年代のダストボウルの惨苦は現在のラストベルトの衰退と、60年代ブラックパワーの昂揚・ゲットーからの叛乱は今日のブラックライヴズマターの潮流とオーヴァーラップしながら、私たちに語りかけるものは多い。この二つの間に橋を架けること。ふたつの声を聞きながらずっと問いつづける。極東の小島に居てなおできることはあるかと。
近所の本屋で藤沢周平の文庫本を物色していると「菅さんの本、ありますか?」の声。ハッとして振り向くと年配の女性と店主。「売れちゃったかな」「安倍さんはダメだったけど菅さんはやってくれると思って」。当たり前の話だが巷には菅の本を真剣に読む人って大勢いるんだよな。一体全体、どんな人たちが菅の本を読むのか想像もつかないけれども、すくなくとも私の目の前で話すのは善良そうな庶民の女性とお見受けした。市井の人たちと私自身の心情の乖離を思うが、いくらもどかしくとも俄かに庶民感情にまっすぐ届く言葉を入手でき得べくもない。自らの無力は無力と覚って当面は変わらず、気色悪いものは気色悪い、ダメなものはダメといやまして思いの丈を吐き尽くしてゆくほかあるまい、等身大の言葉で。いつか互いの想いが通う日がくるかもしれぬ。何も購わずに表へ出る。
2020-12-07 17:52