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記忘記 note/off note 2019-06-11


パンゴの初志と持続の意志

本作『Right Here! / 向島ゆり子』は、1996年にリリースした向島ゆり子さんの初ソロアルバムである。1970年代後半のマシンガンタンゴ、80年代前半のパンゴ(パンク×タンゴ)と、向島ゆり子その音楽活動の嚆矢に〝タンゴ〟が措かれるのは興味深い。この時期はパンク / ニューウエーヴの試行と台頭があっったわけだけれども、20代のゆり子さんが時代の〝新しい波〟を全身に被りながら、同時に世紀末を奏でるタンゴの曲調を掴みとった直感と侠気(おとこぎ)には感嘆するほかない。しかも、タンゴの衣裳で仮装して時代の終末観をやたらと煽る安手の演出で済ませるのではなく、1930年代・タンゴを1980年代・パンクに繋ぎ・重ね合わせて共振させることで、半世紀の間に大衆の身体にふり積もった原・和洋折衷複合リズムを浮き彫りにして取り出し、来るべき同時代音楽の態様を予兆する鼓動へと変えたのである。「世紀末」を「転型期」に変換するシークェンサーを十全に駆使して時代を狂踏乱舞に誘いながら、あっという間に時代を駆け抜け「踊り場」を去ってしまったパンゴ…。

本作はパンゴの試行から15年を経て着手された。多くの豪華参加ミュージシャンのなかに、かつてのパンゴのメンバーの顔ぶれも混じるところにまずは向島ゆり子の〝持続の意志〟を読まないわけにはいかないけれども、それよりは本作で展開されている音楽に虚心を耳を傾ければ、彼女が意図するところは自ずと明瞭だろう。本作においても「タンゴ」がキートーンになっていることはまぎれもないが、そこに南米音楽、伝承民謡のエッセンスを加えることで、さらに深みのある味わい深い音楽になった。論よりは証拠。向島ゆり子のガイドで、タンゴを基点とする世界音楽旅行・同時代音楽ツアーを本作にあたって実地にご体験くださいますよう。“Right Here !” 車窓を流れるめくるめく旅の景色をたのしむように、本作の音楽を存分にご堪能いただければ幸甚。

追記:本作リリースから23年、その間に、本作の制作において、献身的役割を担ってくださった今井次郎さん(2012年11月)、松永孝義さん(2012年12月)の二人がたてつづけに逝去し、それ以前に卓抜な即興技能を惜しむことなく披瀝しくれたトム・コラさん(1998年4月)も儚くなってしまった。日々、同時代の点鬼簿に親しい人の名前が連なっていくのは悲しい。が、向島ゆり子さんにはあらたな音楽未来記を綴っていただき、時代を包む重い空気を振り払ってもらいたい。さらに付言しておくと、本作の棹尾を飾る「恋の予感」はタンゴ往年の優雅な曲想をそのままつたえる。タンゴで始まりタンゴで終る。では、円環は完結して閉じられたのか。そんなことはない、「予感」とわざわざ断っているではないか。向島ゆり子のインスピラシオンは未だ枯れず、きっと次なる同時代音楽の扉を開いてくれるにちがいない。さあもういっぺん、最初から繰り返して本作を聴こう。2019.6.11



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