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記忘記 note/off note 2019-11-26


日々の泡

昨夕、CDをご注文くださったお客さまとメールで「届け先変更」のやりとりをさせていただいたのであるが、文中に「音楽くらいしか楽しみがないのでどうしてもほしいCDでした」とあり、胸を衝かれる。かつてじぶんにもそういう時期があった。20代、ぼくは俸給生活を送っていた。渇ききった喉を水で潤すように、古今東西の音楽を片っ端から貪り聴いたあの頃。砂をかむような日々のくらしのなかで音楽は、唄は、なによりも乾涸びた心の「慰め」であり、毀れやすい魂の「救い」であった。その後はなぜか音盤制作が生業となり、流れ流され、いつのまにかその地点から大分遠くへ来てしまったオノレを確認してただ慄然とするばかりだ。だって、いまのぼくにとって音楽は「楽しみ」ではなく「苦行」に近いから(目下、ぼくのささやかなたのしみといえば、山本周五郎の小説を耽読しその作品世界に逍遙することくらいか)。これは音楽を生業にしてしまったものが負う「業」のようなものかもしれないけれども、苦しい、辛いからといっていますぐに「白旗」を揚げて辞めて終うわけにはいかない。ふたたび20代の感情に戻れないなら、せめて万感の想いを一つひとつの「作品」に託してお一人おひとりに送り届けてゆくしかないだろう。そして、日々の悪戦苦闘を乗り越えて、いつか無数の「楽しみ」を束ねた「夢」の実現をひたすら乞い念う。 2019.11.26

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