記忘記 note/off note 2021-03-28
魂の行為の軌蹟
一昨日、わが畏友にして手練の編集者・向井徹さんよりご自身が編集を担当されたなかにし礼著『愛は魂の奇蹟的行為である』(毎日新聞出版)をご寄贈いただきました。どうもありがとうございます。
なかにし礼という固有の作家が自らの引揚体験を表現の核にしながら、この国の戦後過程をどう見つめ、「うたう詩」を紡いできたか。一時代と強烈に切り結んで主旋律を奏でつづけた同時代の作家・阿久悠とは異なり、固着しない風景とドラマの裡に自身の原体験を滲ませようとする魂の行為はこの国をおおう白闇のスクリーンに一片の愛の形象を投げかけながら時代を超越して通奏低音を響かせていたでしょう。愛国者・なかにし礼のこの国を見つめる眼差しがいつのまにか筋金入りの民主主義者の視座へと変わり、現政権をひたすら弾劾してやまない晩年の発言と行動のなかにもこの作家の魂の行為が読み取れて深く共感していました。「引揚」作家・なかにし礼が基層から湧き上がる声なき声にどう耳を傾けてきたか、この最後のメッセージから聞き取りたいと思います。2021.3.28
2021-04-02 13:40