トランスヒマラヤゆくひとは、夜風遣いのひとさらい。
ウタとオトとカタリが溶け合って銀河の四つ辻交響する。
70年代カウンターカルチャーの一翼を担った月刊漫画誌『ガロ』を主戦場に漫画表現の極北に挑み、「スズキオージ・コスモス」とでも呼ぶべき独自の小宇宙を力ずくで造型した工作者・鈴木翁ニ。本作は80年代につくられ、ひっそりと頒布されたまぼろしの私家版カセット『二〇世紀家出の歌』全編に、代表作「サーカスのころ」「マッチ一本の話」「街道の町」等、代表的作品の自作朗読+音楽を加えて構成された鈴木翁ニ音楽作品集である。
モノガタリの語り部・鈴木翁ニの震えて谺する声は宵闇の芯にぽっと灯を点し、ほんの束の間、懐かしいおとこやおんなの貌を虚空に浮かべる。まるで一本のマッチのように、街道を照らす外灯のように。その一瞬の灯りだけを頼りに彷徨い歩く家出少年、夜の行進曲。胸のボタンを握りしめ、群青の空に浮かぶ星を一つ、またひとつと数えながら。2004年作品
◆鈴木翁二賛江
鈴木翁二さん、ごめんなさい。
わたくしは70年代、翁二さんの「ひとさらいの唄」に、
かってに曲をつけて唄っていました。
最近、はじめてお会いして、また好きになってしまいました。
オクノ修(歌手)
アウトローの歌
翁二さんの声は大好きだ。
ちょっとすねたような、ぶっきらぼうなような、てれたような、
ぷいと横を向いたような、うつむいたような、星を見上げたような。
つまり、けっして学級委員にならなかったアウトローの少年の声だ。
翁二さんの歌声は本当に翁二さんのマンガの線そのものだ。
メロディは人影や風景、リズムはマンガのコマ運びだ。
このCDを聴いていると翁二さんの絵が、頭の中に幻灯機で青白く映し出される。
仕事をしながら聴いていて、「マッチ一本の話」の途中から手を止めて、
ただただ聴き入ってしまった。まるでマッチ一本の燃え尽きる間の夢を見るように。
久住昌之(漫画家)
歩いていれば歌になる。歩いていればおはなしになる。
歩いていれば夜明けになるから、歩いている人は年をとらない。
久しぶりに聞いた翁二の声は年をとっていなかった。
ずっと歩き続けていたんだな。
友部正人(歌手)
ニッポンの少年はもっと鈴木翁二の唄を聞いて漫画を読めばいいのに。
そしたら背中から銀の翅が生えてくるかもしれないのに。
しりあがり寿(漫画家)
1.未明-よあけ-の歌
2.ひとさらいの唄(さみしい名前)
3.サーカスのころ
4.夜歩きソング
5.夜と口笛
6.20世紀の家出の歌
7.街道の町
8.大きな葉っぱ
9.マッチ一本の話
10.ひとさらいの唄(さみしい名前)-reprise
11.星と釦
Musicians
鈴木翁二 Chnt, Reading, 口笛
川村裕司 Programing
川下直広 Tenor saxophone
船戸博史 Contrabass, Cello
イマイアキノブ E.Guitar
松村孝之 Percussion
関島岳郎 Recorders etc
中尾勘二 Trombone, Klarinette etc.
渡辺勝 Gut Guitar
[試聴]
2.ひとさらいの唄(さみしい名前):
3.サーカスのころ:
■ 商品説明
トランスヒマラヤゆくひとは夜風遣いのひとさらい。ウタとオトとカタリが溶け合って銀河の四つ辻交響する。漫画表現の極北に挑み「スズキオージコスモス」とでも呼ぶべき独自の小宇宙を力ずくで造型した工作者・鈴木翁ニ。まぼろしの私家版カセット『二〇世紀家出の歌』に代表作「サーカスのころ」「マッチ一本の話」「街道の町」等、代表的作品の自作朗読+音楽を加えて構成された音楽作品集。
■ 商品仕様
製品名 | [銀盤 まばたきブック1] 未明-よあけ-の歌 / 鈴木翁二 |
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型番 | on-53 |
JANコード | 4571258150534 |
メーカー | オフノート |
製造年 | 2004年 |
[鈴木翁二自身による二つのプロフィール]
◆プロフィール1 作品世界を中心に
鈴木翁二 Suzuki Oji 1949年、愛知県生まれ。
高校卒業後上京。政治青年とフーテン族華やかな頃の新宿に入りびたる。
'69年、青年の空想の恋を描いた「庄助あたりで」(ガロ)でデヴュー。その後、水木しげる氏のプロダクションに約1年間勤める。
70年代に入ると、「むこうのラムネ庵」「街道の町」「マッチ一本の話」等、生の幻想性を、静謐な夜の世界の出来事として、燈明な空気感のもとに描いた秀作で注目を浴びる。同時に、人の心のうちにある闇の感触を描き、遠くに鳴る音楽を持ったかのような、「さみしい名前」「オートバイ少女」「哀愁生活入門」「君と旅する」等の作品を発表、一般読者だけでなく、若い世代の漫画家・詩人・ミュージシャン等の人たちのうちに強く共感され、影響をあたえる。また、独自な時間感覚をたたえたイラストレーションも注目される。'78年には国内各地を旅行、"居残れない者の視点"から眺めた存在の薫り高い連作「バス停物語」(カラー作品)を一年間に渡り描く。
'80年代初め、叙情の原型をたずねて、リリシズムの新鮮な可能性を示した傑作『銀のハーモニカ』、純粋な時間で構成された幼篇漫画集とでも呼ぶべき『少年手帖』(補遺である『マッチのまち』も含め)の清冽な二巻を発表後、創作活動を中断。北海道へ移住するも、'90年よりようやく「少年存在ノート」を開始、若い読者の間に,その名前が囁かれだしている。
鈴木翁二はそのアウトサイダー的な位置に反して、影響力の強い作家だと言われる。"夜空と道と人さらい"の心象風景が代表する作品世界は、安定をきらう、感覚的かつ構成的な多重構造の世界として、すこぶる言葉にしづらいと言われる。あらゆる意味でのセクショナリズムやスタイリズムから遠く自由でいる、このことが、常に読む側の持つ自由なみずみずしい感情に、あるすがすがしさをもって訴えかけてくる所以であり、ジャンルを越えた場所に支持者を見る所以でもあるだろう。
「失敗家であること(自分と似ない)」唯一の方法論に、熱心で息の長い読者に愛される"道草星"は自作曲をこっそりと吹く"クチブエショーネン"であり、定評ある"作文"の書き手であり、なによりも、変わり身のない、"純情果敢な漫画少年"魂の所有者なのである。
◆プロフィール2 鈴木翁二(スズキオージ)音楽的略歴
鈴木翁二(スズキオージ) 漫画家。1949年生まれ。
小学校時代、夜尿症と深夜の不意の腹痛に悩む。
同、雑誌『少年』、堀江純、山本ススムを偏愛する。
1967年、上京。
1969年、雑誌『ガロ』誌上にてデビュー作「庄助あたりで」発表。
以後、『ガロ』をホームグラウンドとして活躍。
1970年代を通じて『ガロ』の中心的メンバーとして作品を発表し続ける。
同、『夜行』創刊メンバーのひとりとして「さみしい名前」を描く。
1974年、ぐわらん堂(吉祥寺)、ロフト(西荻窪)等で自作曲をうたう。
1975年、あがた森魚の代表作『日本少年』のジャケット画を手掛ける。
1990年、自作『マッチ一本ノ話』が劇化される。
1992年、『ガロ』にて特集「鈴木翁二の世界」。
1994年 自作『オートバイ少女』(あがた森魚監督)映画化。
2004年、自作『こくう物語』が少年王者館により劇化。
2005年、待望のファーストアルバム『未明の歌』遂にリリース。
著作は『マッチ一本の話』『オートバイ少女』『こくう物語』等多数。
[音楽的略歴]
1974年ぐあらん堂、ロフト、拾得等4カ所でライヴを行った後沈黙。
「オージの人さらいの唄は声にマッチしたとてもいい唄だと思った」(友部正人)。
2002年バンド「6月23日音楽組合」結成。シバ、友部正人、あがた森魚、
ムーンライダーズ、森田童子、谷山浩子、知久寿焼、遊星ミンツ他、
その漫画世界にインスパイアされたミュージシャンは実に数多い。
最近ではユニット・キセルが細野晴臣氏の音楽番組で共感を表明している。
[制作者インタビュー]
――翁二氏のCDを制作するに至った経緯をお聞かせ下さい。
ずいぶん前のことですが、知人から鈴木翁二の私家版カセットのコピーをもらいました。それで、はじめて鈴木翁二の歌を聴いたんです。そこで歌われている世界が、わたしの知っている鈴木翁二の漫画作品とあまりに密接に繋がっていることに、とても驚きました。それと、声の持っているインパクトが強烈でした。友人が「まるで犯罪者の声だ」と評したほどです。「犯罪者の声」がどういう声なのか、実際にそんなものがあるのかどうか、わかりませんが(笑)。「ひとさらいの歌だな」と妙に納得したのを憶えています。歌のレベルが、漫画家の手慰みとか余技を遙かに越えていた。わたしはもともと、翁二の愛読者で、いつか鈴木翁二の世界を音楽で表現したいと考えていました。「星の栖家」とか「透明通信」。でも、鈴木翁二の世界を最も音楽的に体現しているのは翁二自身なんです。これはもう、御本人に直におねがいするしかありませんよね。
ーーこのCDには、朗読が約半分収録されていますが、このような形になったのは何故ですか?
最初に聴いた私家版カセットのインパクトが大きかったので、それをそのまま、CD化したいと思いました。カセットは収録時間が短かくて、17分くらいしかない。それではアルバムとして売れない、もうすこし時間を稼ぐ必要がある(笑)。当初、何曲か新録するという案もありましたが、旧録と馴染まない惧れがあるので、新曲は「次回のお楽しみ」にしました。カセットのなかに「マッチ一本の話」の朗読が入っていまして、それで歌と朗読のトーストという構成を思いつきました。単に朗読を収録するのでは「作家の自作朗読」じゃないけど、ブンガク臭が出てしまうでしょう? それで、音楽と朗読のコラボレーションを考えたんです。コトバには、強い訴求力がありますが、オトにはコトバが届かないところに連れて行ってくれる「しなやかさ」、「やわらかさ」があります。カタリとオトの交響で鈴木翁二宇宙に迫りたかったんですね、きっと。
ーー制作中、何か特筆すべきエピソードなどございましたか?
漫画表現の中で鈴木翁二の世界は揺るぎないものですから、それを音楽表現に置き換えていく作業は大変だったと思います。『街道の町』のサウンドトラックを制作した関島岳郎が「映画に音楽をつける作業より難しかった」と言っていました。画が動いている映画と違って、静止した画の奥の方にある、コマとコマの間にかくれている無数の「モノガタリ」を読み込んでいかないとコラボレーションにならない。制作過程でのミュージシャンの苦闘が印象的でした。面白い話しですか? 噂に違わず、鈴木翁二は遅刻魔でした(笑)。でも、すごいのは、そこからの集中力。頭に手拭い巻いて一気呵成にいく。朗読でも何でも短時間で片付けちゃう。翁二作品にあらわれている「力ずく」の感じ。それがビンビン伝わってきた。表現者・鈴木翁二の原質を垣間見た想いです。自分だけの宇宙を造型したいという欲求というか衝動。鈴木翁二ってパンクだったんだなあ(笑)。
ーー歌手・鈴木翁二評をお願いします。
素晴らしいですね。唯一無比の歌手ではないでしょうか。ミュージシャンではありませんから、所謂、音楽的なテクニックは、ほとんど皆無に等しいのでしょうけど。それを補ってあまりある世界観があります。それから、なんと言っても「声の力」ですね。なんか震えていて、一人の声ではなくて、たくさんの人が話しているように聞こえる。しかも、深い井戸とか銀河の果て、どこかとおくから聞こえてくる不思議さがある。わたしたちは翁二の声を人間ディレイと呼んでいます(笑)。声というより「ざわめき」に近い。それに、声にドラマがあります。本来、歌にとって技術なんて関係なかったんじゃないかな。大事なことは、誰かに何かを伝えたいという止むに止まれぬ欲求というか、溢れて尽きぬ想い。それが歌の初志だったと思います。プロの歌手がとっくに忘れてしまったことを鈴木翁二は忘れません。けしてお世辞ではなく、稀有な「語り部」です。
「ウタ唄ウスズキオージ/CD「未明の歌」発売に寄せて」より
アックス四〇号(青林工藝舎/2004.8)